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最高裁判所第三小法廷 平成3年(行ツ)155号 判決

主文

一  原判決を破棄する。

二  被上告人の本訴請求中、香労委昭和五三年(不)第一号不当労働行為救済申立事件について上告人のした昭和五七年六月二五日付け命令の主文第3項に関する部分(退職勧奨関係)につき、本件を高松高等裁判所に差し戻す。

三  その余の部分につき被上告人の控訴を棄却する。

四  前項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤進、同土草繁夫、同野崎浩、同森勉、同近藤芳博の上告理由及び上告参加代理人三野秀富の上告理由について

一  事実関係

原審の認定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

1  被上告人は、丸亀市に香川県大手前高等学校及び香川県大手前中学校(以下、両者を併せて「丸亀校」という)、高松市に香川県大手前高松高等学校及び香川県大手前高松中学校(以下、両者を併せて「高松校」という)を設置している学校法人である。上告参加人は、昭和五一年一〇月に丸亀校の教職員をもつて結成された労働組合であり、執行委員長には星野人史(昭和五四年五月まで在任)、次いで中内正嗣(同年六月以降在任)が就任している。

2  上告人は、上告参加人の申立てに係る香労委昭和五三年(不)第一号不当労働行為救済申立事件について、昭和五七年六月二五日付けで、被上告人に対し、次のような命令を発した。(1) 被上告人は、上告参加人の執行委員長であつた星野に対する無許可ビラ配布を理由とする昭和五三年五月九日付けの訓告処分及び同月一六日付けの戒告処分(以下、これらを併せて「本件各懲戒処分」という)を撤回しなければならない(救済命令主文第1項。以下、原判決の用語例に従い「本件救済命令(一)」という)。(2) 被上告人は、組合掲示板の設置について、誠意をもつて上告参加人との団体交渉に応じなければならない(同主文第4項。以下、原判決の用語例に従い「本件救済命令(二)」という)。(3) 被上告人は、学級担任の決定に当たつて、上告参加人執行委員長中内を、組合員である故をもつて他の教員と差別することなく、速やかに学級担任に復帰させなければならない(同主文第2項。以下、原判決の用語例に従い「本件救済命令(三)」という)。(4) 被上告人は、上告参加人の組合員武田博雅に対し、組合員である故をもつて退職を勧奨することにより、組合の運営に支配介入してはならない(同主文第3項。以下、原判決の用語例に従い「本件救済命令(四)」という)。

3  本件各懲戒処分関係

(一)  被上告人の就業規則一四条一二号は、職員の遵守事項として「書面による許可なく、当校内で業務外の掲示をし、若しくは図書又は印刷物等の頒布あるいは貼付をしないこと」と定めている。

(二)  上告参加人は、組合結成の当初から職場ニュースと題する機関紙(ビラ)の配布活動を行つていたものであるところ、配布予定の職場ニュースを被上告人に提出し、その許可を得てから、放課後(午後四時一五分以降)に丸亀校の職員室内で職場ニュースを配布したことがあつたが、配布予定の職場ニュースの記事の内容に疑問があるとして被上告人から不許可になるということがあり、このことを契機として校門外で配布するようになつた。

(三)  上告参加人は、昭和五二年三月一七日及び同年一〇月一五日に行われた団体交渉で、被上告人の許可なく、校内で就業時間外に職場ニュースを配布することを認めてもらいたい旨要求したが、被上告人は、就業規則一四条一二号の規定を根拠として、上告参加人が許可を得ずにそのような組合活動をすることは一切認めない旨を述べてこれを拒否した。上告参加人は、後記のとおり、同日及び昭和五三年五月九日の団体交渉において、組合掲示板を丸亀校内の生徒が余り出入りしない場所に設置することを認めてもらいたい旨の要求も行つたが、被上告人側は右要求をも拒否した。

(四)  上告参加人は、以下のとおり、昭和五三年五月八日、九日、一六日に、いずれも被上告人の許可を得ることなく、丸亀校の職員室内で職場ニュースを配布した。

(1) 上告参加人は、同月八日、始業時刻(午前八時二五分)前の午前七時五五分から八時五分までの間に、職員室内の各教員の机上に職場ニュースの印刷面を内側に二つ折りにして置く方法で配布した。右職場ニュースの記事は、香川県下の数校の私立学校教員の昭和五三年度の賃上げについての労使間の妥結額や交渉状況等を内容とするものであつた。同日、被上告人丸亀校の校長(当時)倉田康男は、星野執行委員長に対し、このような配布行為をしないよう注意した。

(2) 上告参加人は、翌九日の午前八時から八時五分までの間に、職員室内の各教員の机上に表面を内側に二つ折りにして置く方法で職場ニュースを配布した。右職場ニュースは両面印刷のもので、表面の記事は同日予定されていた団体交渉の議題等が中心であり、裏面の記事は不当労働行為について労働組合法七条を引用して説明したものであつた。

(3) 上告参加人は、同月一六日の午前八時から八時一〇分までの間に、職員室内の各教員の机上に印刷面を内側に二つ折りにして置く方法で職場ニュースを配布した。右職場ニュースの記事は、九日に行われた被上告人との団体交渉の結果を報告するものであつた(以上の三枚の職場ニュースを併せて「本件各ビラ」、これらの配布を併せて「本件ビラ配布」という)。

(4) この三回の本件ビラ配布中に配布をめぐつてトラブルが生じたことはなく、また、本件ビラ配布によつて始業時刻から職員室で開かれた職員朝礼に支障が生じたこともなかつた。

(五)  倉田校長は、五月九日の午前一一時ころ星野に対し、同月八、九日にされた職場ニュースの配布は就業規則一四条一二号に違反するとして、同規則六七条一号所定の譴責のうち訓告(書面注意)に付する旨の懲戒処分をした。さらに、同月一六日、倉田校長は星野に対し、同日の職場ニュースの配布は就業規則一四条一二号に違反するとして、前記譴責のうち戒告(書面で注意し将来を戒める)に対する旨の懲戒処分をした(本件各懲戒処分)。

(六)  上告参加人は、同年六月一九日の団体交渉で、本件各懲戒処分の撤回を要求したが、被上告人側は、「校内での組合活動は一切否定する」、「労組法よりも就業規則が憲法だ」などと述べてこれを拒否した。

4  団体交渉拒否関係

(一)  上告参加人は、昭和五二年一〇月一五日に行われた団体交渉において、被上告人に対し、丸亀校内の生徒が余り出入りしない場所に組合掲示板を設置するのを認めてもらいたい旨要求したが、倉田校長は、(1) 校内で生徒の目に触れないところはおよそ存在しない、(2) 組合掲示板にどのような掲示がされても被上告人はこれに介入することができないので、許可に踏み切ることができないなどとして右要求を一切拒否し、具体的事項についての協議に入らないまま短時間で交渉を打ち切つた。

(二)  上告参加人は、昭和五三年一月ころ、高松校の教職員を構成員とする労働組合(以下「高松校労働組合」という)が高松校内の組合掲示板の設置を認められた旨聞き知つたことから、同年五月九日の団体交渉において、被上告人に対し、再び、丸亀校内の生徒が余り出入りしない場所に組合掲示板を設置することを認めてもらいたい旨要求したが、倉田校長は、前回同様これを拒否し、具体的事項についての協議に入らないまま交渉を打ち切つた。

(三)  被上告人は、高松校労働組合に対して、高松校内での組合掲示板の設置を認めていたが、右組合掲示板に掲示されたビラの記事内容が被上告人との間の労使紛争の原因となつたことがある。

5  学級担任の不選任関係

(一)  中内は、昭和四七年四月被上告人丸亀校に採用されたものであるところ、昭和五一年一〇月の結成当初からの上告参加人の組合員であつて、翌五二年四月ころその執行委員となり、同年一一月から翌五三年三月まで計四回開かれた団体交渉に毎回交渉委員として出席するなどしていた。

(二)  中内は、被上告人に採用された以来、数学の授業を担当し、昭和四九年度から昭和五一年度まで、順次、高校一年ないし三年の学級担任に選任され、翌五二年度には退職者の後任として中学二年の学級担任となつた。

(三)  中内は、昭和五三年度の学級担任に選任されるものと予期していたところ、同年四月に配布された校務分掌表の学級担任の欄に自己の名がなかつたため、学級担任を外されたことを知つた。

(四)  丸亀校においては、中学又は高校の一、二年の学級担任に選任されていた教員は、特別の事情のない限り、次年度には、進級後の学年の学級担任に選任されるものであり(いわゆる持上り)、中学又は高校の一、二年の学級担任であつた者が、その翌年度に進級後の学年の学級担任に選任されないということは異例のことであつた。もつとも、学級担任であつた者が何らかの事情で進級後の学年の教科を担当しなくなる場合には、当該学年の学級担任にも選任されないこととされていた。

(五)  丸亀校の学級担任の選任は、毎年度末に副校長や教頭などのメンバーで原案を作成し、これを主任会(教科主任、学年主任及び各課主任で構成)に諮つた上、校長が決定するものとされていた。

(六)  丸亀校において、上告参加人の結成直後である昭和五十二、三年度中、前年度に学級担任をしていて次年度の学級担任に選任されなかつた者が合計五名であつたが、このうち中学三年の学級担任であつた一名を除く他の四名は、その全員が上告参加人の組合員であつた。反対に、昭和五十二、三年度中、前年度には学級担任でなかつたのに学級担任となつた者は共同担任を含めて合計一〇名であつたが、その全員が上告参加人の組合員以外の者であつた。

(七)  中内の数学の授業には被上告人の内部基準と比較して相当程度の授業進度の遅れがあつたが、昭和五十一、二年度を通じ、被上告人によつてこのことが問題とされたことはなかつた。ところが、昭和五二年度末に行われた翌年度の校務分掌の決定において、中内に中学三年の数学を担当させると前記内部基準による教育に支障があるとして中内に中学三年の数学を担当させないこととされ、前記慣例に従つて同学年の学級担任にも選任しないこととされた。しかし、中内は、数学の授業を外されたわけではなく、昭和五三年度の高校一年及び中学二年の数学を担当するものとされた。

6  退職勧奨関係

(一)  武田は、昭和五〇年四月社会科の教員として被上告人丸亀校に採用された者で、上告参加人の組合員である。

(二)  武田は、昭和五二年六月、高校一年一組の生徒編集の学級新聞(同月三〇日発行)の紹介記事のために生徒が行つたインタビューに応じて、進学中心主義の被上告人の教育方針には反対である旨答えたが、学級新聞が生徒に配布される前に理事長倉田キヨヱらの知るところとなり、記事の内容が修正された。

(三)  武田は、昭和五二年一月までの間の授業中に、生徒に対し、被上告人は教職員の給与を低額に抑えていながら他方では土地を買い占めているとして、被上告人の経営を非難した。倉田理事長は、その後これを知つて、昭和五三年三月ころ武田の身元保証人である近藤某に対し、武田が右のような言動を続けるのであれば解雇するほかないが、武田にその旨伝えて任意に退職するよう勧めて欲しい旨述べ、武田に対して間接的に退職の勧奨をした。

(四)  武田は、本件救済申立て後の昭和五五年四月八日付けの職場ニュースに、事実無根のことで被上告人から退職を強要され、そのことが原因で武田の父が死亡したとの趣旨の署名記事を掲載した。

(五)  倉田理事長が右の署名記事に関して武田の弁解を聞いたところ、同人はすべて真実に基づいて書いたものである旨述べて自己の非を認めなかつた。このため、同理事長は、右記事と前記の各行為とを併せ考えると、武田は教諭としての適格性に欠けるものと判断し、同日、通常解雇の前段階として、同人に退職の勧奨をした。

(六)  武田は、昭和五六年三月、右退職勧奨に関し、他の組合員らの意見を容れて、自分の未熟さのため誤解を招くこともあつたが、不徳のいたすところで、今後誠意職務に精励する旨の書面を提出した。倉田理事長はその文言になお不満があつたが武田が反省したものとみてこれを受領し、退職勧奨を事実上撤回した。

二  原審の判断

原審は、右事実関係につき、次のとおり判断した。

1  本件ビラ配布は就業規則一四条一二号に違反するものであるから正当な組合活動に当たらず、本件各懲戒処分は組合員であることによる不利益取扱い又は労働組合に対する支配介入のいずれにも当たらない。したがつて、被上告人が本件各懲戒処分によつて組合員であることによる不利益取扱い及び上告参加人に対する支配介入をしたものと認めた本件救済命令(一)は誤りで、これを取り消すべきである。

2  労使間の紛争につき事実に基づかない記事を内容とするビラが組合掲示板に掲示されてこれが生徒の目に触れることにより教育を阻害するおそれがあり、また、被上告人が組合掲示板の設置を認めた高松校では掲示されたビラの記事内容が労使紛争の原因となつたことがあるというのである。したがつて、被上告人が組合掲示板の設置を認めないことには合理的な理由があり、被上告人が、組合掲示板の設置に関して上告参加人との間で更に重ねて団体交渉に応ずる義務があるとはいえず、組合掲示板の設置についての団体交渉の拒否を正当な理由がないとした本件教済命令(二)は誤りで、これを取り消すべきである。

3  中内が中学三年の数学を担当すれば遂には被上告人の定めた進度基準での教育に破綻を生ずることは必定であるから、授業進度の遅れを理由として同人に中学三年の数学を担当させないものとした被上告人の取扱いは首肯することができ、その結果中内は同学年の教育に関与しなくなつたのであるから、そのような場合にはいわゆる持上りの学級担任の選任をしないとする丸亀校における慣行もまた合理的な理由に基づくものということができる。したがつて、同人を昭和五三年度の中学三年の学級担任に選任しないこととした被上告人の取扱いは業務上の必要に基づくものであつて、これを組合員であることを理由とする不利益取扱いと認めた本件救済命令(三)は誤りで、これを取り消すべきである。

4  被上告人が、武田に対して教諭としての適格性に欠けると判断して退職勧奨をした行為は相当であり、被上告人が上告参加人の運営を支配しこれに介入する意思があつたとの事実を推認することはできないから、労働組合法七条三号の不当労働行為に当たるとして武田に対する退職勧奨を禁止した本件救済命令(四)は誤りで、これを取り消すべきである。

三  当裁判所の判断

1  本件各懲戒処分関係

(一)  前記事実関係の下において、本件ビラ配布は、許可を得ないで被上告人の学校(丸亀校)内で行われたものであるから、形式的には就業規則一四条一二号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定は被上告人の学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがつて、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである(最高裁昭和四七年(オ)第七七七号同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一巻七号九七四頁参照)。

右の見地に立つて本件ビラ配布について検討すると、本件各ビラは、いずれも職場ニュースと題する上告参加人の機関紙であるところ、本件各ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額(五月八日配布のもの)、被上告人との間で予定されていた団体交渉の議題(同月九日配布のもの)、右団体交渉の結果(同月一六日配布のもの)など、上告参加人の労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であつて、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない。また、本件ビラ配布の態様をみると、本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして(特に五月八日及び一六日配布の片面印刷のものは、印刷面を内側にして)教員の机の上に置くという方法でされたものであつて、本件ビラ配布によつて業務に支障を来したことを窺わせる事情はない。また、生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであつても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より一五分以上も前の、通常生徒が教員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであつて、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。

したがつて、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等の被上告人側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分は被上告人の不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為を構成するものというに帰する。

(二)  以上により、本件各懲戒処分につき不当労働行為の成立を否定した原判決には、労働組合法七条一号及び三号の解釈適用を誤つた違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決は、この点において破棄を免れず、被上告人からの本件救済命令(一)の取消請求を棄却した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴はこれを棄却すべきである。

2  団体交渉拒否関係

(一)  前記事実関係によれば、組合掲示板の設置の承認を求める上告参加人の要求に対する被上告人側の対応は、校内で生徒の目に触れないところはおよそ存在しないし、また、組合掲示板にどのような掲示がされても被上告人はこれに介入することができないから許可に踏み切れないなどという一方的かつ原則論的な主義に終始して、交渉事項についての実質的な検討に入ろうとしないものであつて、上告参加人との合意達成の意思を最初から有していないに等しいとの非難を免れないであろう。

組合掲示板が校舎内に設置されるものであるからといつて、生徒に対する教育的配慮の観点から一切これが認められないということにはならないのであつて、被上告人としては、そのために必要と考えられる規制について上告参加人との間で種々の話合いとするのが、労使間のあり方として当然の要請というべきである。また、被上告人が組合掲示板の設置を認めた高松校労働組合との関係で、掲示されたビラの記事内容が労使紛争の原因となつたことがあるとしても、だからといつて、それが組合掲示板の設置を求める上告参加人との団体交渉を拒否する正当な理由となり得ないことはいうまでもないところである。

したがつて、被上告人の団体交渉の拒否は、正当な理由を欠くものとして、労働組合法七条二号の不当労働行為を構成するものというに帰する。

(二)  以上のとおり、団体交渉の拒否につき不当労働行為の成立を否定した原判決には、労働組合法七条二号の解釈適用を誤つた違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決は、この点において破棄を免れず、被上告人からの本件救済命令(二)の取消請求を棄却した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴はこれを棄却すべきである。

3  学校担任の不選任関係

(一)  丸亀校において、中学又は高校の一、二年の学級担任に選任されていた教員は、特別の事情のない限り、次年度には進級後の学年の学級担任に選任されるものとされており、学級担任に選任されないことは、丸亀校の教員間の一般的認識の上で、学級担任としての適格性に消極的評価が示されたという受止め方がされていたことを窺うことができる。

そして、昭和五十一、二年度を通じて被上告人によつて中内の数学の授業進度の遅れが問題にされたことがなく、昭和五三年度の校務分掌の決定において中学三年の数学を担当させないこととされた後も中内を他の学年の数学の担当に充てるものとされていること、昭和五十二、三年度において、前年度に学級担任をしていて次年度に学級担任に選任されなかつた者は、中学三年の学級担任であつた者一名を除き全員が上告参加人の組合員であり、反対に、前年度に学級担任でなかつたのに新たに学級担任に選任された者は、全員が上告参加人の組合員以外の者であつたこと、中内が上告参加人の執行委員となり団体交渉の交渉委員に就任するなどして積極的に組合活動に従事していたこと等の事情に徴すれば、他に特段の事情の認められない本件においては、被上告人が中内を中学三年の学級担任に選任しなかつたのは、不利益取扱いとして、中内の組合活動を嫌悪する不当労働行為意思に基づくものといわざるを得ず、被上告人が中内を学級担任に選任しなかつた行為は、労働組合法七条一号の不当労働行為を構成するものというに帰する。

(二)  以上により、中内に対する前記不選任行為につき不当労働行為の成立を否定た原判決には、労働組合法七条一号の解釈適用を誤つた違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決は、この点において破棄を免れず、被上告人からの本件救済命令(三)の取消請求を棄却した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴はこれを棄却すべきである。

4  退職勧奨関係

(一)  上告人及び上告参加人は、本訴において、倉田理事長は、上告参加人の組合員である武田に対し、(1) 昭和五二年一月二〇日、(2) 近藤某を介して同年七月八日、(3) 昭和五五年七月一六日、(4) 昭和五六年三月一九日の四回にわたつて退職勧奨をしたが、これら退職勧奨は、いずれも被上告人の職員から武田を排除して上告参加人の運営を支配しこれに介入しようとするもので、上告参加人に対する不当労働行為に当たる旨の主張をしている。そして記録によれば、前記(1)ないし(4)の退職勧奨につき、第一審における被上告人代表者倉田キヨヱ本人の供述及び証人武田博雅の証言等、上告人及び上告参加人の主張に副うものが存在し、これに基づいて第一審は、右(1)ないし(4)の退職勧奨が支配介入として不当労働行為に当たるとし、本件救済命令(四)を是として被上告人の本訴請求を排斥したことが記録上明らかである。

しかるに原審は、右の経緯及び証拠の存在にもかかわらず、上告人及び上告参加人主張の(1)ないし(4)の退職勧奨につき何ら判断を示すことなく、これと全く時点を異にする(ア)昭和五三年三月ころ及び(イ)同五五年四月八日の退職勧奨を認定した上、それが不当労働行為意思に基づくものでないとの理由で、本件救済命令(四)を違法とし、被上告人の請求を排斥した第一審判決を取り消すべきものとしたのである。

右は本件救済命令申立て以来の経過を無視して当事者の主張(争点)につき判断を示さないまま被上告人の請求を認容したもので、審理不尽、理由不備、判断遺脱の違法を冒したことが明らかである。

(二)  原判決はこの点において破棄を免れず、本件救済命令(四)の点につき改めて審理させるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、四〇七条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官園部逸夫 裁判官 大野正夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

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